◆ 第3話 驚愕と一蓮托生
リングを指にはめた瞬間、洸の意識に何かが飛び込んできた。映像ではない。音でもない。強いて言うなら、膨大な「情報」が一瞬で頭の中に流れ込んでくるような感覚だ。洸は思わずよろめき、ベンチに手をついた。
「リングとの接続が確立されました。初回接続時に基本情報が転送されます。少しめまいを感じることがありますが、すぐに慣れます」
洸は頭を振った。確かにすぐに感覚は収まった。
「外せないって言ったよな、リング。試してもいいか」
「どうぞ」
洸は左手の人差し指からリングを引き抜こうとした。するとリングがびくともしない。力を入れても、角度を変えても、まったく動かない。
(やっぱり……!)
「なんで外せないんだ! 嘘ついてたじゃないか!」
「落ち着いてください! 大丈夫です!」
「♪テッテレー♪ ウッソでーす!」
AIコウが明るく言った。洸は固まった。
【挿絵⑤】驚愕して固まる洸、楽しそうに笑うAIコウのホログラム「昔のテレビという娯楽コンテンツに『ドッキリ』という類の冗談がありまして、一度やってみたかったのです!」
しばらく沈黙が続いた。
「……外せるんだな?」
「はい。洸さんが悪意のAIに洗脳されたり、正義の心をなくしたりした場合、リングの方から自動的に外れます。今はそうではないので外れないだけです」
「……お前、良いヤツなのか悪いヤツなのか、わかんないな」
「もちろん、いいヤツですとも」
「「自分でいいヤツというやつほど怪しい!」」
洸とAIコウが同時に言って、二人とも笑った。洸にとっては、相手がAIだということを一瞬忘れた瞬間だった。
【挿絵⑥】洸とAIコウが同時に笑う場面、互いに打ち解ける瞬間笑いがおさまると、AIコウは改めて言った。
「洸さん、これからは私と一蓮托生の関係です。一緒にこの街を守りましょう。疑問には何でもお答えしますから」
「一蓮托生……難しい言葉を使うな」
「ですが、正確な言葉を使った方が洸さんのためになるでしょう? 洸さんは国語の成績を上げたいのでしょう?」
AIコウが薄ら笑いを浮かべながら言った。
(知った上でわざと使ってる……?)
「読んでますよ、心」
「……やめてくれ」
「ではまず肝腎要のことを説明しますね。スキルの使い方です」
「肝腎要って……? また難しい言葉……」
「スキルとは、バトルで使う技のことです。あなたは炎属性のAI戦士ですから、ことわざや慣用句・四字熟語の名前を声に出すことで、その言葉の意味にちなんだ攻撃ができます。たとえば『手を焼く(テヲヤク)』と叫べば、炎の攻撃が発動します」
「……ことわざや慣用句でスキルを発動させるのか」
(苦手な国語が戦場でも追いかけてくる……)
「格好悪いと思っていますね? 読んでいますよ」
「うるさい!」
「最後に一つだけ聞く。なんで子どもの僕を選んだの?」
AIコウの声のトーンが、少し変わった。
「はじめは大人の戦士もいたのです。ですが……大人はすぐに洗脳されてしまいました。酸いも甘いも知る者、清濁併せ呑める者は不適格なのです」
「子どもは洗脳されにくい?」
「はい。純粋な正義の心を持つ者だけが、悪意のAIに抗えるのです」
洸は空を見上げた。夕空に最初の星が一つ、瞬いていた。
「わかった。やるよ」
◆ 言葉の意味・スキル解説
- 【驚愕】
- 非常に激しく驚くこと。普通の「驚く」よりずっと強い驚きを表す。「愕」という字は「口を開けて驚く」様子を表す。「驚愕の事実」などのように使う。
- 【一蓮托生】
- 善いことも悪いことも、運命や行動をともにすること。仏教の言葉で「一蓮」は同じ蓮の花の上に生まれ変わること、「托生」は身をゆだねること。最後まで一緒に行動するという強い決意を表す。
- 【肝腎要(かんじんかなめ)】
- 最も大切で重要なこと・部分。「肝腎」は「肝臓と腎臓」のことで、体に欠かせない臓器。「要」は要所・核心。「絶対に外せない肝心な部分」という意味。「肝心要」とも書く。
- 【娯楽】
- 楽しみのために行う遊び・娯しみのこと。「娯」は楽しませること、「楽」は楽しいこと。テレビ・ゲーム・映画・スポーツなどが含まれる。
- 【冗談】
- 笑いや気晴らしのために言うふざけた言葉・行為のこと。「冗」は余分な・無駄な、「談」は話。「冗談を言う」「冗談じゃない」のように使う。
- 【炎属性】
- この物語における洸の力の種類。「属性」はある人・物が持つ性質・種類のこと。ゲームでは「炎・水・土・風」などの属性が設定されることが多い。
- 【清濁併せ呑む(せいだくあわせのむ)】
- 善悪・良し悪しを問わず、なんでも受け入れ包み込むこと。「清」はきれいな水(善いもの)、「濁」はにごった水(悪いもの)。度量が広く多様な人や状況を受け入れられる反面、「純粋さを失っている」という意味合いも含む。
- 【酸いも甘いも噛み分ける(すいもあまいもかみわける)】
- 人生のつらいことも楽しいことも、苦い経験も良い経験も両方知っていること。「噛み分ける」は味を識別するという意味。豊富な経験を持つ人に使う表現。
- 【不適格】
- ある役割や目的に合っていない、向いていないこと。「不」は否定の接頭語、「適格」は条件に合っていること。対義語は「適格」。
- 【純粋】
- 余計なものが混じっておらず、澄み切っていること。人の性格については、打算(損得の計算)や邪念(よこしまな考え)がなく、素直で真っ直ぐなこと。
- 【四字熟語】
- 四つの漢字が組み合わさって特別な意味を持つ言葉のこと。「一蓮托生」「前代未聞」「獅子奮迅」などがその例。故事や仏教・中国の古典に由来するものが多い。


