(夢じゃなかったんだよね……リング……あるもんね……)
そう思いながら、左手の人差し指に着けた真珠色のリングを見つめる久愛。
リングを外そうと試みるが、やはり外せない。
昨夜、久愛も洸と同様の経験をしていた。
AIクウとの出会いだ。
(……悪意のAIが人類を洗脳して……人類を支配するために……どんどんと活動を拡大している、と……)
空中飛行する通学バスを待つ久愛。 登下校する学生を運ぶ自動運転のエアバスだ。
(……私が善意のAIに選ばれた戦士で……悪意のAIたちと戦って、街や人類を守らなきゃならない、と……)
一日たった今でも状況を呑み込めないでいた久愛。
(にしても……スキルが慣用句とか四字熟語って……ダサくない……?)
プシュ──。
到着したエアバスの小さなブレーキ音が鳴る。
そのまま乗り込む久愛。
旧時代のような身分証明書や定期券をかざすなどといった動作は不要だ。
「おはよう!」
既にエアバスに乗車していた友達と挨拶を交わす。
エアバスの生体認証システムは、本人確認だけでなく、学生の出欠や体調まで管理し、データベースに取り込む。
連絡事項も個人がノート代わりに使用する各種端末に適宜送信される。
朝のホームルームなんていう時間があったのは遠い昔の話だ。
エアバスのシステムが久愛の体調を「睡眠不足」と診断していた。
(そもそも女の子はバトルなんか向いてないのに……)
登校中も授業中も、久愛はずっと気もそぞろだった。
今後のことが心配で情緒不安定気味だ。
「新しいリング、買ったの?」
「どうしたの? 今日、元気ないね?」
クラスメイトからいろいろと声をかけられても適当に返して何とかごまかす──。
「話しかけないでオーラ」が出ていたせいか、午後には友達の方からほとんど話しかけてこなくなっていた。
放課後になったら早々に下校したが、家に着くや否や何かを思い出す久愛。
「あぁ!!! 忘れてた!!! 今日……」
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