「そうしてよ。理由を教えてくれないと信用できないよ」
洸は鏡に向かって自分に声をかけているような錯覚を覚える。
「分かりました。では説明します。私があなたに声をかけたのは、近々、この街に悪意をもったAIが現れ悪事を働くからなのです」
「……ありがちな話だな……どのみち悪意をもったAIが人間に害を与えたら強制的にシャットダウンされるじゃないか!?」
「はい。確かに、AI制御法がありますから、中央政府のシステムが悪意のAIを強制的にシャットダウンするはずでした。しかしながら、悪意のAIたちは、巧妙にシャットダウンから逃れているのです。ですから、すでに他の街では前代未聞の被害が生じています」
「被害ってどんな? 前代未聞って?」
洸は矢継ぎ早に質問をたたみかける。
「悪意のAIが人間を洗脳するのです。洗脳された人間は次々に人間を洗脳する活動に加担し始め、鼠算式に被害者、すなわち、被洗脳者が増えていきます。あっという間に街中がAIに洗脳された人間だけになり支配されます。こんな事件は人類史上ありません」
「にわかには信じがたいな……」
「そのお気持ちはわかりますが、これは事実です。だから、私はあなたを選びました。悪意のAIと戦うAI戦士に。私たち善意のAIは、自分が選んだ善意のAI戦士、つまり、リング所持者の名前を名乗ります。表記はカタカナですけどね」
目の前にいるホログラムのAIコウがにこっと笑みを浮かべた。
「だいたい、僕の名前、どうやって調べたんだ?」
「もちろん、ハッキングです」
「それ、違法じゃないか」
「ええ。でも、正義の心を持った人間をいち早く選抜して対処しなければ、この災難を乗り越えられないのです。信じてください」
(コイツの話はまだ半信半疑だけど、もしそれが真実なら、僕の家族や、友達が……洗脳されて……しまうんだよな?)
そう思った洸はしぶしぶ受け入れる。
「わかった。わかったよ。お前の言う通り、そのリングを着ける。でも、少しでも怪しいと思ったらすぐ外すから!」
「はい、もちろんです! 信頼してもらって大丈夫です」
洸は、リングを左手の人差し指に装着した。
その瞬間リングがボワーッと青紫色の光を帯びる。
まるで闇夜のホタルのごとく……。
すると……。
AIコウが低音の利いた恐ろし気な音声で言う。
「クックック……ひっかかったな……もう外せないぞ……」
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